駿河台経済新聞

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飯田ゼミ(前期)で扱った課題本を紹介します!

こんにちはー 厳しい暑さが続きますね! 

 

初投稿させてもらいます、さわです。

 

さて今回は前期のゼミの授業で扱った本を4冊紹介します。

 

飯田泰之著 『思考の「型」を身につけよう』朝日新書

 


 本書は経済学を勉強するうえで用いる思考法が実は経済学以外のさまざまな分野でも役立つということを伝えています。

「はじめに」では、「文系学部で学んだことは確かに現実的に役に立たない、けれども学ぶなかで身につけた思考法は現実的に役に立つ」ということが書かれています。

 政治経済学部では、「財政政策がもたらす金利や経常収支への影響」「金融政策が及ぼす物価への影響」などを勉強します。しかし政治経済学部を卒業したあと、実際に財政政策や金融政策を考える仕事に就く人はほとんどいません。

 

 それでは大学の勉強――とりわけ経済学の勉強はいったい何の役に立つのでしょうか? 本書はその疑問に答えるため、いくつもの例を挙げています。今回はそのなかから2つ、興味深い例を紹介します。

 

 1つ目は因果と相関についてです。データ観察をする際に、この因果と相関について勘違いしてしまうと、誤った結論が導かれてしまいます。

 ここでは1961年以降における家庭の車普及率と男性平均寿命のグラフが例に挙がっています。2つのデータは年々同じペースで上昇しており、グラフの形はほとんど一致しています。

 けれども、ここで「車が普及したから男性の寿命が伸びた」「男性の寿命が伸びたから車が普及した」などという結論を導くのは誤りです。この2つのデータは確かに強い相関関係を示してはいますが、いささかの因果関係も認められません。

 このように因果と相関を見誤らないように注意深くデータを確かめることは、日常生活でも有益な思考法です。

 

 2つ目はサンクコスト(埋没費用)についてです。これは経済学の用語で、その後の行動とは無関係に決して取り戻すことのできない費用のことをいいます。

 たとえば、とある遊園地にお金を払って入ったものの、どのアトラクションもつまらなさそうで利用料を払って乗る気がまったく起こらなかった……そんなとき、遊園地の外に映画館を見つけ、ちょうど面白そうな映画をやっていたとします。

 このとき、せっかく入場料を払ったのだから……と遊園地から出ない選択をすることを「サンクコストに引っ張られている」といいます。ビジネスにおいては、このようなサンクコストは無視し、新たな事業(つまり遊園地を出て映画を観ること)を始めるのが懸命といえます。

 

 以上のように、本書は日常生活やビジネスに役立つ経済学の学び方が盛り込まれています。経済学に興味が無い方にとっても、経済学を勉強しているけれどいったい何の役に立つか分からない……という方にとっても非常に有益な一冊です。

 

 

 松尾匡著『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』PHP新書

 

 本書には「巨人たちは経済政策の混迷を解く鍵をすでに知っていた」という副題が添えられています。「巨人たち」とはケインズハイエク(+フリードマンクルーグマンなど)を指しています。ケインズは資本主義市場経済に対し懐疑的で、場合に応じて政府による公的介入をすべきと論じました。他方でハイエクは裁量的な経済政策を批判し、基本的に自由な市場経済を目指しました。

 

 一見相容れない二大経済学者ですが、実は彼らにはある共通点がありました。どういうことでしょうか。本書は「リスク・決定・責任の一致」「予想は大事」という2つのキーワードからその謎を解き明かします。

 

 ハイエクは国家の役割を前もって決めたルールに限定し、さじ加減で判断する政策に反対しました。なぜなら、人々の経済活動における判断(決定)は、現場の人に任せるのが最も適しているからです。現場の外部(国家)は広く世の中のニーズに関わる情報を正確に把握することはできません。現場の人が責任を持ち、リスクを自分で引き受けて判断してこそ、人々のニーズに合った市場が育まれていきます。ハイエクはしたがって、何らかの不運によって所得が減ったとしても、国がそれを裁量的に補償してはいけないと考えます。

 

 また、ハイエクは民間の営みがスムーズに行われるためには、リスクを減らすために国家の活動を予測可能なものにすべきだと言いました。それこそがハイエクが裁量よりもルールを重視した理由でした。フリードマンも同様の理由でケインズ主義を批判しました。

 

 ケインズの考え方を継承した現代のケインズ理論では、需要と供給が一致しないときの物価変動のプロセス自体が人々によって予想されると考えます。日本の経済不況は、人々のデフレ予想がひとり歩きした結果であるというのです。

 

 では、人々の予想をインフレ方向に確定させるためにはどうすればいいでしょうか。それが、クルーグマンの提唱する「インフレ目標」です。このインフレ目標は政府が決定するため、中央銀行にのみ責任を負わせるのではなく、政府も積極的にコミットすることでいっそう効果的になるといえます。

 

 以上のように、本書は「リスク・決定・責任の一致」「予想は大事」をテーマに70年代以降の経済史を紐解いています。また、その他にもソ連型システムやゲーム理論ベーシックインカムの考察もなされており、非常に興味深い一冊です。

 

 

小島寛之著『完全独習 統計学入門』ダイヤモンド社

完全独習 統計学入門

完全独習 統計学入門

 

 

 本書は統計学を初めて学ぶ人や、一度統計学を学ぼうとして挫折した人のための本です。一般的な統計学の教科書とくらべて数式が少なく、具体例がいくつも挙げられているのが特徴です。また、数式に登場する記号や演算は中学3年生レベルまでになっており、高等数学をまったく覚えていないという人でも無理なく読み進めることができます。

 

 本書は2部構成になっており、第1部では統計の初歩の初歩「平均」から標準偏差正規分布」「区間推定」までを紹介しています。ここでは統計学を理解するうえで重要である「標準偏差」について多くのページが割かれています。標準偏差は「データが平均からどれぐらい散らばっているか」という概念自体はシンプルなのですが、その数字が統計上何の意味を持つのかが重要になります。どういうことでしょうか。

 

 例えば、仮に日本人成人男性の平均身長が170センチメートル、標準偏差が5.5センチメートルとします。ここで、身長190センチメートルの人は平均プラス標準偏差2個分――11センチメートル――よりも大きいということが分かります。統計学正規分布では、平均プラス標準偏差2個分よりも大きいデータは、全体の2.5%程度しか存在しないということが知られています。つまり、身長190センチメートルぐらいの人は日本人成人男性のなかで2.5%程度しかいないということが分かります。このように本書は、偏差値をしっかり理解することで、正規分布についての理解もより深まるような構成がとられています。

 

 第1部では全体のデータと標準偏差正規分布を用いて、データの特徴を浮き彫りにする方法を学びました。第2部では逆に、全体の中から与えられた一部のデータだけを用いて、全体のデータがどのようになっているのかを推計する方法を学びます。ここでは、「標本」「母集団」「カイ二乗分布」「t分布」が紹介されています。一見難しそうに思えるかもしれませんが、標準偏差の意味をきちんと知っていれば問題なく理解できるようになっています。また、ここでも難しい計算式はあまり登場せず、文章による論理的な説明メインになっています。

 

 著者の小島寛之さんは、「おわりに」で、統計学は「飛躍」――すなわち、部分から全体を推論するというやりかたに楽しさがある、と書いています。本書はそのような統計学の「飛躍」の楽しさに満ちた一冊になっています。

 

 

 

高橋洋一著『図解 ピケティ入門』あさ出版

【図解】ピケティ入門 たった21枚の図で『21世紀の資本』は読める!
 

 

 2013年8月にフランスで発表され、その後世界中で話題を呼んだトマ・ピケティ『21世紀の資本』。2014年4月には英語版、同年12月には日本語版など多くの言語で翻訳・出版され、累計100万部を突破しています。研究者以外の人はなかなか手にしづらいかなり分厚い経済書であるにもかかわらず、ここまでヒットした理由とは何なのでしょうか。本書はそんな『21世紀の資本』に登場する多くのグラフの中から主要な21枚だけを引用し、簡潔な説明を試みています。

 

 本書の全体の4分の3を占めるPart1では、ひたすらグラフの説明を行っています。「二つの世界大戦の影響で欧米・アメリカの民間資本は減ったが、その後は増加している」「資本収益率はGDP成長率より大きい」などなど。

 

 ピケティは多数のデータを用いて、世界の経済がどのように移り変わっていったのかをひたすら説明し続けています。それはまるで経済書というよりも、経済をテーマにした歴史書であるかのようです。では、ピケティは一体何を言おうとしてこんなに膨大なデータを詳らかにしたのでしょうか?

 

 続くPart2では、『21世紀の資本』が提起する主張を簡単にまとめてあります。これまでのデータから示された結論は、「資本収益率r(家を貸して得る家賃収入など)はGDP成長率g(収入の増加率)よりもつねに上回ってきた」という事実でした。ピケティはそれゆえ、このr>gの状況は今後も続くだろうと考えています。

 

 ただしこれは「いままではそうだった」というだけであり、「今後もどうしようもない」というわけではありません。ピケティはr>gの状況を変えるために、累進課税を強化すべきだと主張しています。なぜなら過去2つの世界大戦中において、欧米・アメリカでは累進課税が厳しく強化されたせいで、一時的にr>gが逆転したという歴史的データがあるからです。したがってお金持ちと労働者の格差を是正するためには、税制の見直しが必要だということになります。

 

 値段も高く量もあり、なかなか手を出せない『21世紀の資本』ですが、本書を読むことでそのエッセンスをつかむことができます。21枚のグラフもたいへん興味深く、教養としておすすめの一冊です。

 

 

 

 いかかだったでしょうか。今年度初めての本紹介となりましたが興味を持っていただけたら幸いです。