卒論紹介『群馬県のふるさと納税における特典制度の影響と成功要因分析』
こんにちは。今回のブログでは、私(杉木)の卒業論文を紹介します。
テーマは、「群馬県のふるさと納税における特典制度の影響と成功要因分析」です。
1.はじめに
そもそもふるさと納税とはどんな制度なのでしょうか?
これは、「生まれ育ったふるさとに貢献できる」、「自分の意思で応援したい自治体を選ぶことができる」納税制度として2008年度に創設された制度です。この制度が作られた背景には、都会一極集中と地方過疎という今の日本社会の現状があります。多くの人が地方で生まれながらも進学や就職を機に都会へ移り、その場所で納税を行う結果、都会の税収は増える一方で、ふるさとの税収は減ってしまいます。この地方と都市の税収格差という課題を解決するためにふるさと納税が創設されました。
2.全国の成功事例
次に、寄付金額が全国ランキング上位の、以下3市町村の成功例を調査しました。
この3自治体の特典の内容を見てみるとどれも中身が充実しています。そして3自治体ともに、特典を導入してから飛躍的に寄付件数・金額が伸びていました。ここから、ふるさと納税制度の寄付件数・金額の増加は特典制度の充実と相関関係があるのではないかという仮説が立ちました。
3.データ詳細
仮説を立証するための回帰分析で扱うデータについて説明していきます。データは以下の8種類です。
【表1 データ詳細】
変数名 |
単位 |
出典 |
①ふるさと納税の寄付件数 (Donation Number) |
件 |
ふるさとチョイスホームページ
|
②ふるさと納税の寄付金額 (Amount of Money) |
円 |
ふるさとチョイスホームページ
|
③人口(Population) |
人 |
群馬県統計情報提供システムホームページ |
④特典制度の有無 (Thanks Gift) |
1:あり 0:なし |
ふるさとチョイスホームページ |
⑤クレジット決済の有無 (Credit Pay) |
1:あり 0:なし |
ふるさとチョイスホームページ |
⑥特典が豪華 (High-return) |
1:極めて豪華 0:それ以外 |
ふるさとチョイスホームページ |
⑦特典が豪華でない (Low-return) |
1:豪華でない 0:それ以外 |
ふるさとチョイスホームページ |
⑧特典制度導入経過年数(Passed years) |
年 |
各市町村役場に問い合わせ |
特筆すべきデータと
して、⑥⑦の特典の豪華さについて説明します。
【図1 各市町村の納税特典の豪華さ】
4.回帰分析結果
次に、3のデータを回帰分析した結果を述べます。
①寄付件数
寄付件数と最も強い相関を示したのは、「特典の豪華さ」です。「特典が豪華でない」ことと「特典導入経過年数」は寄付件数と相関関係はないことが読み取れます。また、人口が多いとかえって寄付件数は少なくなるという結果も出ました。これは、寄付者は繁華街よりも田舎を選ぶ傾向があるのではと考えられるでしょう。
②寄付金額
寄付金額の増減は、「特典の有無」よりも「クレジット決済の有無」と「特典の豪華さ」と強い相関関係あるということが読み取れました。「クレジット決済」は、寄付者側が、寄付金額が多くなるほど手続きがより簡単なクレジット決済ができる市町村を選ぶ、または寄付金額が多い自治体ほどふるさと納税に力を入れているだろうと考えられます。
回帰分析の結果によって、①②ともに特典の豪華さが最も重要な要素と分かりました。
5.考察
では、特典の豪華さとは一体どんな要素が含まれるのでしょうか?群馬県内の市町村の特典例を見ていきます。
<寄付伸び率の高い県内3市町村の例>
・榛東村(しんとうむら)
①伊香保温泉の旅館金券
②だるま等の県の名産である工芸品
③果物(りんご、イチゴ)
④肉(手作りハム、上州牛サーロイン)
⑤その他コシヒカリ米や白子海苔セット等の特産品
・中之条町(なかのじょうまち)
四万温泉で使える半額相当の感謝券
特産品のセット
100万円以上の高額寄付者に対して、「1日町長就任権」特典
・草津(くさつ)
- 半額相当の感謝券(飲食店・宿泊施設)
- 草津温泉入浴券
- スキー場リフト券
<寄付の少ない県内3市町村の例>
- 高山村
5,000円以上の寄付で以下の2つの特典を贈呈している。
村内の店で利用できる「お礼券(金券)」
高山村の農産物等(お米・野菜・果物・加工品・他)の特産品
- 邑楽町(おうらまち)
一万円以上寄付した人には、以下の2つの特典がもらえます。特典の種類は一種類のみ。
- 邑楽町産のブランド米5キログラムと、地場産品詰め合わせセットをプレゼント
- 町の広報誌を1年間無料でお届け
うどんの詰め合わせ、または、またはうどんと日本酒の詰め合わせ
上記の2種類で、寄付金額は5000円から特典贈呈
これらの特典を見てみると、特典の豪華さは「還元率の高さ」と「利用上の制限がない」という共通点があると考えられます。
6.課題とまとめ
4の分析結果から、寄付件数・金額増加のためには、特典の有無よりも「中身の豪華さ」が重要ということが分かりました。そして特典の豪華さとは、「還元率の高さ」と「利用上の制限がない」ということが明らかになりました。
特典制度の運用については課題も多々ありますが、ふるさと納税の今後の発展のために、群馬県や全国の自治体でより戦略的に活用されるべきでしょう。
<参考資料>
・総務省(2015),「よくわかる!ふるさと納税」,総務省ふるさと納税ポータルサイト(http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/080430_2_kojin.html)
- ふるさとチョイス(2015),「群馬県内各市町村のふるさと納税データ」,ふるさとチョイスホームページ(http://www.furusato-tax.jp/)
- 群馬県統計情報提供システムホームページ,(http://toukei.pref.gunma.jp/)
- ニッセイ基礎研究所 レポート(2014)(http://www.nli-research.co.jp/report/researchers_eye/2014/eye140408.html)
<参考文献>
・黒田成彦(2015)『平戸市はなぜ、ふるさと納税で日本一になれたのか?』(KADOKAWA)
・宝島社(2014)『ふるさと納税完全ランキング』(宝島社)
・増田寛也(2014)『地方消滅ー東京一極集中が招く人工急減』(中公新書)