卒論紹介『有名漫画家は何作目で代表作を生み出すのか』
こんにちは。井上です。
今回は、私が執筆した論文「有名漫画家は何作目で代表作を生み出すのか—8つの項目とのデータ分析から考える漫画家の未来」について紹介します。
漫画。近年の電子書籍の普及やスマートフォンの普及から、それまでより更にぐっと身近な存在になったのではないでしょうか。「あきらめたらそこで試合終了ですよ」なんて名言も、漫画を読んでない人でも聞いたことがある人が多いと思います。現在では行政主導で漫画を用いた人材育成やコンテンツ開発も推進されていますよね。
そんな漫画を描く漫画家の中でも、一際目立つ、有名漫画家がいます。例えば、漫画界の巨匠、手塚治虫(以下敬称略)。彼は、何百作もの作品を生み出していることで有名ですが、ブラックジャック、鉄腕アトムなど、よく知られる作品を数多く葉輩出しています。
では、ある漫画家作品の中で、単行本の発行部数が最も多い漫画をその漫画作者の代表作と定義した時、日本の有名漫画家は何作目で代表作を生み出すのでしょうか。
……そんなことを調査して、有名漫画家の代表作に対しての要因、出版社、出版雑誌、単行本発売年、単行本既刊数、完結しているか、漫画の略称はあるか、漫画のジャンルはどれに属するか、に加えて、有名漫画家の単行本作品数、有名漫画家の性別を調査し、関係性を分析、考察したのが今回紹介する論文の主な内容です。
この研究により、例えば有名漫画家の代表作が何作目なのかと漫画ジャンル、出版雑誌などの関係性を知ることで、漫画マーケティングに有効活用できたり、販売予想、漫画家育成で活用されたり、漫画家は才能なのか否か、漫画家はどの出版社に持ち込みをするべきなのかの指針になると考えています。
この研究の調査方法としましては、
・日本の漫画発行部数ランキングベスト100を抽出した際、この100作品を有名漫画とする。また、有名漫画の作者を有名漫画家とする。
・データは全て2015年8月8日のもの
この二つを前提として
- 日本の漫画発行部数ランキングベスト100を抽出
- 抽出した作品の漫画家人数を把握
- 有名漫画家の代表作に対して調査
- 調査データの分類
- 分析予想
- 分析
- 考察
という流れで行いました。
それでは、分析した中から出版社別、出版雑誌別、単行本発売日別の分析結果と考察を紹介したいと思います。
表1.1:有名漫画家の代表作が単行本作品何作目か・全体
分散[1] |
133 |
有名漫画家 |
89人 |
これが、有名漫画家全体の分析結果のグラフです。
【出版社別分析結果・考察】
表1.2:有名漫画家の代表作が単行本作品何作目か・出版社別
|
その他 |
|||
分散 |
18 |
30 |
70 |
526 |
有名漫画家 |
40人 |
12人 |
20人 |
17人 |
出版社別のグラフです。平均値、分散は集英社、小学館、講談社、その他と右肩上がりになりました。集英社の値が平均値、中央値ともに有名漫画家全体よりも目立って低かったのに対して、小学館、講談社、その他の出版社は中央値、除く手塚平均値が有名漫画家全体よりも高くなりました。
これから、アンケート至上主義をとる「少年ジャンプ」の方針が集英社全体に影響、そして小学館と講談社は漫画家のスタイルや編集部の企画を重視しているのではないかと考えられます。また、集英社は漫画界を牽引する存在であることがわかります。
【出版雑誌別分析結果・考察】
表1.3:有名漫画家の代表作が単行本作品何作目か・出版雑誌別
|
その他 |
|||
分散 |
2 |
14 |
52 |
268 |
有名漫画家 |
30人 |
8人 |
13人 |
38人 |
出版雑誌別のグラフです。平均値、中央値、分散ともにジャンプ、サンデー、マガジンになるにつれて右肩上がりになりました。ただし、サンデーとマガジンの中央値は同じでした。特に、ジャンプの平均値、中央値、分散が著しく低い一方、マガジンとその他は有名漫画家全体よりも除く手塚平均値が高くなりました。また、出版社別に比べ、どの項目も平均値が低くなりました。
これから、「少年ジャンプ」の編集方針は安定していること。「少年マガジン」では漫画家の入れ替わりが少ないと考えられます。そして、出版社別と比べることで、週刊誌で連載する上でも一作目、二作目の重要さが伺えます。
【単行本発売日別分析結果・考察】
表1.4:有名漫画家の代表作が単行本作品何作目か・単行本発売日別
|
1980年以前 |
1980年代 |
1990年代 |
1999年以降 |
分散 |
612 |
57 |
8 |
27 |
有名漫画家 |
14人 |
24人 |
26人 |
25人 |
単行本発売日別のグラフです。80年以前と80年代の中央値、平均値がともに有名漫画家全体よりも高くなりました。特に、80年以前の中央値が他の年代や有名漫画家全体と比べ著しく高い数値になりました。また、平均値、中央値、分散が最も低い年代は90年代でした。
これから、年代ごとの特色が如実に現れていることがわかります。特に、90年代の中央値の低さは群を抜いています。つまり、90年代の有名漫画家の多くが一作目や二作目で代表作を生み出していることになるでしょう。世代を越えて人気を誇る「ドラゴンボール」などは、時代の荒波を乗り越えたからこそ生まれた大作なのかもしれません。
以上のようにして、他に巻数別、完結しているか+漫画略称があるが別、ジャンル別、単行本出版作品数別、性別別に分析・考察をしました。
結果として、本研究ではひとつ、未来の漫画家に伝えたいメッセージが生まれました。
「有名漫画家を目指すなら、一作目に勝負をかけろ!」
[1] 小数点以下を切り捨てた値にしてある。