卒論紹介『電子マネー利用者の金銭感覚についての分析』
こんにちは、4年の上田です。今回は私の卒業論文「電子マネー利用者の金銭感覚についての分析―アンケート調査によるデータに基づく電子マネー利用者の傾向の考察」について紹介したいと思います。
はじめに
今日では貨幣での決済の他に電子マネーでの決済が多く見られる。電子マネーが普及してきていることは明らかであり、電子マネーが今後も多くの人に利用されていくであろうと考えられる。私自身も電子マネーを頻繁に利用するが、電子マネーを使用しているときはお金を使っているという感覚が低下しているということに気づいた。言い換えると、電子マネーを使用する際には現金を使用しているときに比べて金銭感覚が変化しているのではないかと考えた。
そこで、新しい決済方法である電子マネー決済が消費者の金銭感覚にどう変化を与えているのか、電子マネー利用者にはどのような特徴があるのかを明らかにしたい。それを明らかにしたうえでこれからさらに普及するであろう電子マネーの使用にあたっての留意点やこれからの電子マネーについて考察していく。
電子マネーについて
電子マネーの種類は大きく二つに分けられる。一つがストアバリュー型 、もう一つがアクセス型である。前者は取引ごとに決済情報のやりとりを必要としない電子マネーである。一方後者は預金通貨がより一層流動的になった形態である。
さらに、ストアバリュー型の電子マネーは二つに分類される。一つ目はプリペイド型の電子マネー。プリペイド型とは前払い式という意味である。使用する前に電子マネーのICカードにあらかじめチャージすることによって使用できるというものである。二つ目にポストペイ型の電子マネーである。ポストペイ型 とは後払い式という意味で、使用した金額を後日支払うというものである。こちらの電子マネーは決済の際に署名を必要としないことを除くとクレジットカードとほぼ同じ仕組みになり、消費行動と支払いに時間差がある。私の卒論では消費行動と支払いに時間差のないプリペイド型の電子マネーのみを対象にして研究を行う。
プリペイド型の電子マネーは主に5種類ある。交通系ICカード、Edy、auWALLET、nanaco、WAONである。以下の表では交通系のICカードはSuicaとPASMOに限定し計5種類がある。発行枚数は6種類合計で約22,023万枚にも及び、加盟店舗数も6種類でのべ約90万店 となる。また、各社は電子マネーをより多くの人に利用してもらえるようにポイント還元やオートチャージ機能などのサービスを提供している。
ここ数年のデータを通して電子マネーについては以下のグラフと表をご覧ください。
決済金額と決済金額の推移のグラフ
決済件数と発行枚数
|
決済件数 (百万件) |
決済金額 (億円) |
一件当たりの決済金額(円) |
発行枚数 (万枚) |
2008 |
1053 |
7581 |
720 |
9885 |
2009 |
1394(+32.3) |
11223(+48.0) |
805 |
12426 |
2010 |
1915(+37.4) |
16363(+45.8) |
854 |
14647 |
2011 |
2237(+16.8) |
19643(+20.0) |
878 |
16975 |
2012 |
2720(+21.6) |
24671(+25.6) |
907 |
19469 |
2013 |
3294(+21.1) |
31355(+27.1) |
952 |
22181 |
2014 |
4040(+22.6) |
40140(+28.0) |
994 |
25534 |
括弧内は前年比(%)
分析概要
研究方法はアンケート調査を用いる。大学生の男女415人を対象に行った。アンケートの内容は以下の通りである。
① アルバイトによる収入
② 住まい
③ 仕送りやお小遣いでもらっている金額(収入)
④ 学校にいるときの昼食の平均使用額
⑤ 高いと思う飲み会代の金額
⑥ 目的地への電車移動について
⑦ 家計簿をつけているか
⑨ 使用したことがある電子マネーの種類
⑩ 電子マネーをどこで使用したことあるか
⑪ 電子マネーで購入したもの
⑬ 電子マネーの一回の使用最大額
⑭ 電子マネーを使う理由
⑮ 電子マネーにチャージされている金額を把握しているか
実際に使用したアンケート用紙を以下に掲載する。
アンケートは
(ⅰ)①~③の収入について問う項目
(ⅱ)④~⑦,⑮の金銭感覚を問う項目
(ⅲ)⑧~⑪.⑭の電子マネーの使用される場所や使用される理由
(ⅳ)⑫~⑬の電子マネーの使用状況についての項目
で構成している。
⑫⑬を被説明変数として分析する。
分析方法はクロスセクション分析を用いる。収集したアンケート結果を元に各項目をダミー変数に変換する。具代的な数字の選択肢はその中央値をダミー変数として取った。具体的な数字以外の選択肢は選択肢ごとにダミー変数0or1に変換した。なお、選択肢が二択の設問についてはひとつの選択肢についてダミー変数0or1に変換した。また、設問⑤のアンケートで多くの人が選択肢「3000円以上」を選択したことからこの設問について“飲み会3500円ダミー”をいうものを設け、設問⑤で「3500円以上」「4000円以上」「4500円以上」「5000円以上」を選択したらダミー変数1、「3000円以上」を選んだら0として新たにダミー変数を作成した。
上記のダミー変数に変換したデータを元に⑫の電子マネー平均使用額と⑬の電子マネー最大使用額について回帰分析し、各項がどの項目と相関関係があるのかを明らかにしていく。なお、回帰分析の際は(ⅲ)についてはカットして分析を行った。
有意水準の値が高い順にカットして最終的に有意水準0.1以下のものだけを残すという方法ととった。
分析結果
⑫の電子マネー使用平均額についての回帰分析について
分析の結果、平均昼食使用額とチャージ額把握の項目が優位に働いた。
このことからわかるのは日頃、昼食にお金を使いがちな人、電子マネーの残高を把握していない人が電子マネーの平均使用額が多いということである。
私の仮設では収入(アルバイト収入や仕送り、小遣い)と電子マネー使用平均額が相関すると考えていたが、分析の結果、アルバイト収入とお小遣いの項目はともに優位水準が約30%に項目になり、相関関係は希薄であると考えられる。
昼食の平均額とチャージ金額を把握していないとい項目の次に優位水準が低かったのが家計簿をつけているか否かという項目であった。家計簿をつけていない人、日頃の昼食から多くお金を出している人、電子マネーの残高を把握しないで使用している人などお金に関してマメではない人が多く電子マネーを使っているという結果が出てきた。このような分析結果から電子マネー平均使用額はその人の豊かさではなく性格に依存して変化していることが考えられる。金銭感覚を問う項目で「電車で目的地に向かうとき、10分早いが150円多くかかるor10分遅いが150円安い」というものを用意したが、優位には働かなかった。
⑬電子マネー最大使用額の回帰分析結果について
電子マネーの最大使用額は昼食平均使用額、飲み会代、飲み会3500円ダミー、チャージ額把握していないの四つの項目との相関がみられるという結果になった。本項でも収入に依存せず、使用者の性格や普段の消費行動に依存することが分かった。
考察
金銭感覚とは収入による変化よりも先にその人の性格、お金への考え方の違いから影響を受ける部分が多いと考えられる。普段から浪費しがちな人は電子マネーでも多くの金額を使用している。電子マネーを使用しているから金銭感覚が鈍くなる、お金を使っている感覚が薄れるというのではなく、元々お金を使いがちな人は貨幣が形を変えても使ってしまうという結論になるだろう。この卒論では対象を大学生のみにしたため、社会人の電子マネー使用や金銭感覚については収入の相関大きくなる可能性もあるが、やはり金銭感覚は性格に依存するところが多いだろうと思う。
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