卒論紹介『若年労働者と早期離職率の関係性について』
こんにちは、山内です。今回は、私の卒業論文のテーマである「若年労働者と早期離職率の関係性について」を紹介したいと思います。
1.はじめに
現在、若年労働者の早期離職率が社会問題になっています。早期離職率は年々減少傾向にあるものの、H24年3月卒業者において卒業3年後の離職率が中学卒で65.3%、高校卒で40.0%、大学卒で32.3%にも上るという結果が出ています。
図1:H24年3月卒業者における卒業3年後の離職率
このような状態が続くと、単に個人の能力が成長しないということだけでなく、結果として企業の成長性の妨げにもなってしまいます。この分析では、若年労働者と早期離職率の関係性を調査することで、早期離職率を低下させる為の糸口を探っていきたいと思います。
2.データについて
今回の分析では、産業別と都道府県別に高卒と大卒・大学院卒のデータを比較します。産業別では、入職者数、早期離職人数、早期離職率、有効求人数を使用します。有効求人数は1〜12月の12ヶ月分を平均した値を使用しています。また、産業別の分類は以下の39業種です。
表1:産業別分類
鉱業,採石業,砂利採取業 |
情報通信機械器具製造業 |
建設業 |
輸送用機械器具製造業 |
食料品,飲料・たばこ・飼料製造業 |
その他の製造業,なめし革・同製品・毛皮製造業 |
繊維工業 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
木材・木製品製造業 |
|
家具・装備品製造業 |
運輸業,郵便業 |
パルプ・紙・紙加工品製造業 |
卸売業 |
印刷・同関連業 |
小売業 |
化学工業,石油製品・石炭製品製造業 |
金融業,保険業 |
プラスチック製品製造業 |
不動産業,物品賃貸業 |
ゴム製品製造業 |
学術研究,専門・技術サービス業 |
窯業・土石製品製造業 |
宿泊業,飲食サービス業 |
鉄鋼業 |
娯楽業 |
非鉄金属製造業 |
教育,学習支援業 |
金属製品製造業 |
医療業 |
はん用機械器具製造業 |
|
生産用機械器具製造業 |
複合サービス事業 |
業務用機械器具製造業 |
自動車整備業,機械等修理業 |
電子部品・デバイス・電子回路製造業 |
その他の事業サービス業 |
電気機械器具製造業 |
|
全39業種 |
都道府県別では、入職者数、早期離職人数、早期離職率、有効求人倍率、都道府県ごとの人口、人口密度(総面積1㎢当たり)、人口密度(可住地面積1㎢当たり)を使用します。有効求人倍率は1〜12月の12ヶ月分を平均した値を使用しています。
データはそれぞれ、2010年〜2013年の4年間のもので、政府統計の総合窓口e-Statの雇用動向調査や、職業安定業務統計等を使用しています。
3.産業別早期離職率についての分析
産業別早期離職率についての分析方法は、散布図による比較を用います。
図2:早期離職率と有効求人数の散布図大卒・大学院卒
図2は大学・大学院卒の早期離職率と有効求人数の散布図です。特に法則は見られず、相関は無さそうです。高卒のデータも同じような結果となりました。
相関が見られなかった理由としては、業種ごとの特色が強いということが考えられます。例えば、金融業,保険業や医療業は、資格が必要な業種であり、多くの人が転職等をしないということを視野に入れて就職をしていることが多いのではないかと思います。対して、宿泊業,飲食サービス業や娯楽業は、業務内容を他社や別の業種でも応用できる場合が多く、より良い労働条件があればそちらへ流れてしまうことがあるのではないでしょうか。
4.都道府県別早期離職率についての分析
都道府県別早期離職率についての分析方法は、回帰分析のパネルデータ分析を用い、高卒と大卒・大学院卒、そして両方を合わせたデータをそれぞれ分けて分析していきます。
今回の分析で設定した説明変数は以下の6つです。
- 大卒・大学院卒ダミー
- 入職者数
- 有効求人倍率
- 人口
- 人口密度(総面積1㎢当たり)
- 人口密度(可住地面積1㎢当たり)
この早期離職率とこれらの説明変数を用い、大卒・大学院卒と高卒では3通りずつ、両方を合わせたものは4通りの回帰分析を行いました。
結果は有効求人倍率が有意、それ以外は有意でないとなり、有効求人倍率は今回設定した6つの変数の中で、唯一全てのデータで早期離職率に影響を与えるということが分かりました。この事から、有効求人倍率は大卒・大学院卒、高卒に関わらず早期離職率と深い関係があるという事が分かります。その係数はおよそ-0.7であり、早期離職率に対して負の影響を与えています。また、今回の分析で1番驚くべき事は、大卒・大学院卒ダミーが早期離職率に対して影響を与えないということです。大卒・大学院卒ダミーとは、大卒・大学院卒であるかそうでないか(ここでは高卒)ということが早期離職率に影響を与えるかを調べる為に設置した変数です。つまり、大卒・大学院卒や高卒であるということで早期離職率には関係が無いという事です。
5.まとめ
これまでの分析の結果を受け、大卒・大学院卒や高卒ということで早期離職率に影響を与えないという事がわかりました。この原因として、大学や大学院、高校の学生生活中に勤労観が身に付いていないという事が考えられます。つまり、就職するにあたっての企業側が求めている知識や能力が不足しており、そこが企業とのミスマッチとなっているのではないかと思います。そのミスマッチを解消する為には、学生生活のうちにより様々な社会経験をすることが大切なのではないでしょうか。もちろん学生自身が自らの就職について考え、行動する事も大切ですが、学校や企業のサポートがある事によって学生がより就職した後のイメージを持つ事が出来るのではないかと思います。若年労働者の早期離職率を下げる為には、学生のうちから社会に触れる事が出来るような環境を作る事が大切になってくるのではないかと考えられます。
参考文献
・厚生労働省,「新規学卒者の離職状況」厚生労働省若年者雇用関連データ
(http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2/12.html:2015年12月31日閲覧)
・厚生労働省(2013),「新規学卒者の離職状況(平成22年3月卒業者の状況)」労働市場分析レポート
(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/roudou_report/dl/20131029_03.pdf:2015年12月31日閲覧)
・三重県(2008),「三重県の若年者の早期離職防止に関する企業調査」就職とキャリアの教育学
(http://ir.nul.nagoya-u.ac.jp/jspui/bitstream/2237/16852/1/v18-6.pdf:2015年12月31日閲覧)
・熊澤光正(2007),「女性新入社員と経験者の職場意識と疲労感に関する研究」日本経営工学会論文誌
(http://ci.nii.ac.jp/els/110007521735.pdf?id=ART0009351699&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1452483629&cp=:2015年12月31日閲覧)
・山口憲二(2005),「キャリア教育と若年者雇用問題」新島学園短期大学紀要
(http://ci.nii.ac.jp/els/110004621808.pdf?id=ART0007331936&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1452483872&cp=:2015年12月31日閲覧)
・e-Stat,「雇用動向調査」最新結果一覧
(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000001012468&requestSender=dsearch:2015年12月31日閲覧)
・e-Stat,「職業安定業務統計」
(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1b.html:2015年12月31日閲覧)
若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)
- 作者: 城繁幸
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/09/15
- メディア: 新書
- 購入: 17人 クリック: 447回
- この商品を含むブログ (612件) を見る