駿河台経済新聞

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卒論紹介『都道府県間の人口移動における要因についての分析』

こんにちは。鈴木です。

今回は私が卒業論文で取り扱った都道府県間の人口移動における要因」についての分析と結果を紹介します。

 

1.はじめに

 現在、日本の都道府県において過半数が転出超過の現状にあります。2010年の国勢調査によると転入超過の県はわずか8都道府県であり、その他はおおよそ1000人以上の転出超過で人口流出が激しいといえます。高度経済成長期やオイルショックバブル崩壊以降の不況といった社会、経済の変化の中でこれまでに行われてきた人口移動と、現代の人口移動の要因に違いはあるのか、といった疑問から、今回は都道府県間の人口移動の要因について分析を行いました。

 

2.使用したデータ

目的変数は各都道府県の転入超過数、受け入れ先都道府県(以下、基準地)の人口に対する転入超過数の割合、各基準地への転入者数、各基準地からの転出者数、基準地人口に対する転出者数の割合の5つを設定しました。

説明変数は人口、所得、雇用、住居、その他、ダミー変数の6つのカテゴリから24種類を設定した。人口密度、男女別人口割合、15歳未満人口割合、15歳以上65歳未満人口割合、65歳以上人口割合、単身者世帯割合、昼夜間人口割合、県民所得、一人あたり県民所得、有効求人倍率、人口10万人に対する病院数、新設住宅着工戸数、一次産業従事者割合、二次産業従事者割合、三次産業従事者割合、持ち家率、可住地面積比率、基準地の政令指定都市の有無、都道府県間の距離、さらに人口や経済の規模、都道府県間の距離を鑑みてダミー変数として、東京と一都三県(東京、千葉、埼玉、神奈川)が基準地ないしは転出した際の移動先(以下、比較地)であった場合と、沖縄が比較地であった場合に設定しました。なお、説明変数は経済や人口規模によって分析に影響が出ないように基準地人口に対する割合に統一しています。

また、分析方法として、本稿では都道府県間の人口移動の要因を探るため、上記の5つの目的変数に対し24の目的変数を設定し、重回帰分析を行いました。重回帰分析を行うにあたっては変数減少法を用いて変数選択を行いました。

 

 

3.結論と今後の課題

今回の研究で明らかとなったのは、以下の二点です。

(1)東京を中心とした一都三県地域の特殊性

(2)各都道府県における高齢者の割合が人口移動に影響を及ぼす。

 

分析を行った結果明らかになったこの二点について、具体的に考察を行います。

まず、人口密度が全てにマイナスに効いていることから人口密度が高いほど求心力は高いが、定着率も高く人口移動は起きづらいと考えられます。持ち家率も同様に全てにマイナスに効いているという点から、持ち家率が高い都道府県ほど人口移動は起きづらく転入出があまり増減しないといえるでしょう。その一方、政令指定都市ダミーや東京基準地ダミーが全てにプラスであるという点から、特に経済規模の突出した都府県に関しては転入も転出も活発であるということが考えられる。中でも東京、千葉、埼玉、神奈川といった一都三県は地方の政令指定都市と圧倒的に経済規模や通勤、通学で用いる交通インフラの整備状況といった面で突出しているため明らかであるといえます。これは一都三県基準地ダミーと一都三県比較地ダミーが転入超過数と転入超過数の割合においてマイナスであること、それ以外の目的変数においてはプラスに働いていることからも裏付けられます。

この一都三県の特殊性で言えば、県民所得が転出者割合を除いて全てマイナスに働いている点にも着目したいと考えられます。はじめに述べたように、かつての人口移動は所得や雇用を求めて発生していると考えられていました。現に、転入超過数とその割合において昼夜間人口割合がプラスに効いていることからも、就業者が多い基準地ほど転入超過が発生しやすいのではないかという見方もできます。しかしながら、今回有効求人倍率は一つも有意ではなく、さらに県民所得が高ければ転出入が起きづらい、あるいは基準地への定着率が高いという結果となりました。これは単なる雇用先、賃金を求めての人口移動ではなく、生活基盤、あるいは住環境といった要因が人口移動に大きな影響を及ぼしていると考えられるのではないでしょうか。また、都道府県間の距離が全てマイナスに効いていることから、かつてのような都心一極集中ではなく、近県の政令指定都市への移動、もしくは一都三県に在住しその中で移動が発生しているのではないかと考えられます。

 

次に、高齢者の割合が人口移動に影響を及ぼす点について述べます。

この論拠に関しては、人口10万人に対する病院数が全ての目的変数に対しマイナスに効いていた点、転出者数において可住地面積比率がプラスに働いていた点、そして転入出者数において一次産業従事者割合がマイナスに働いていた点にある。人口に対する病院が多いほど人口移動は起こりづらいといえます。さらに、可住地面積比率が高いほど転出者数が多いということは三次産業に比べて一次産業や二次産業の方が活性化しており、いわゆる土地あまりになっている可能性が高いです。また、転出入者数にマイナスに効いている一次産業従事者は高齢者が多いことからも、高齢者の割合が高い都道府県は人口移動が起こりづらく、転出者数が少ない代わりに求心力も弱いために転入者数も少ないということがわかます。高齢者ほど持ち家率や所得も高いため、前述した考察結果とも整合性がとれている。

図1は、今回用いた65歳以上人口割合について表したものです。47都道府県のうち、赤で記したおよそ半分の県は65歳人口割合が25%以上です。また、青で記した23%以上の道府県も合わせると、各地方の中心となる大都市圏か関東、関西の一部の県を除いてかなりの数を占めることになります。つまり、現代の都道府県間の人口移動の減少の原因として各都道府県の高齢者の人口割合が高くなっていることが挙げられます。労働人口は各地方の政令指定都市など中核都市、あるいは東京を中心とした一都三県などやその周辺に移動するのに対し、他の県では高齢化が進むに連れて出生率も下がり、人口の自然増加率も下がる。高齢化が進むことで転入者数はますます減少し、地域の過疎化が進行するということです。地域の衰退は高齢化と密に関係があり、地方活性は悪循環を断ち切り各都道府県が若返りを行わないと難しいという現状が明らかになりました。

 

図1 各都道府県の65歳以上人口割合

 

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今回の研究において明らかになった今後の課題は以下の二点です。

(1)東京を中心とした一都三県の特殊性と、その他の地域の人口移動について

(2)高齢者割合が人口移動に負の影響を及ぼすことの解決策と地域活性化について

 

今回、人口密度が高い都道府県ほど定着率が高く、人口移動が起こりづらいという結果になったにも関わらず、東京や一都三県ダミーは非常に有意かつプラスに働くため活発な人口移動が起きているという正反対の結果となりました。これには地方都市と首都圏の所得や雇用の差だけではなく、交通インフラの整備による通勤、通学圏の拡大やベットタウンを備えた巨大な経済規模を持つ首都圏の特殊性を明らかにしたといえます。したがって、この一都三県内の人口移動についての要因分析とその他の地域の人口移動についての要因分析を分けて行った場合ではさらに異なる結果が見えてくるのではないかと考えられます。この点において、まだ検証の余地があるとして今後の課題であるといえます。

次に、高齢者の割合が高いほど人口移動が起きづらいという結果から高齢化問題と人口移動の事象には密接な関係があるという結果についてです。前述のとおり、各地域における人口の増加は高齢者の割合が高ければ高いほど難しいことが現状です。これまでの考察から、単なる雇用や所得だけでなく、住環境や生活形態という点が人口移動にとって重要なファクターであることは明らかです。これらをもとにして、この悪循環を断ち切り、地域活性化のための各都道府県の若返りに向けた解決策を考える必要があるのではないでしょうか。

 

 

 

参考文献

岡崎陽一『日本人口論』(1990)、古今書院

姫野和弘(一般財団法人 土地総合研究所)(2015)「都道府県間の人口移動について リサーチメモ(2015年2月27日)」(http://www.lij.jp/news/research_memo/20150227_2.pdf:2015年10月30日閲覧)

国土交通省(2002)「国土交通白書平成14年版」(http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h14/H14/html/E1021101.html:2015年10月30日閲覧)

国土交通省国土地理院「各都道府県庁間の距離」(http://www.gsi.go.jp/KOKUJYOHO/kenchokan.html:2015年10月30日閲覧)