駿河台経済新聞

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卒論紹介『都道府県別平均通勤時間が出生率に与える影響について 』

こんにちは、いしつかです。今回は卒業論文のテーマとして、都道府県別の平均通勤時間と出生率についての分析と考察を紹介したいと思います。

 

1. はじめに

 日本の出生率は近年減少傾向にあります。出生率の低下は少子化の進行に直接的に影響し、社会経済に問題を発生させます。人口構造の変化によって生じる少子高齢化社会は、若年労働力人口の減少、一人あたり社会保障負担の増大といった、経済的負担を増大させ、その経済的負担が婚姻率・出生率の低下に繋がり、更に少子化の進行に拍車をかけているのです。

 

図1:日本の出生数・出生率の推移

f:id:SurugaD:20160223195558p:plain

 

 

図2は、2010年の都道府県ごとの平均通勤時間のヒストグラムです。年齢層が高くなると、同性間の差は収束していきますが、男女間では通勤時間に大きな差が生じることがわかります。男女年齢層別の通勤時間に着目してみると、年をとり、結婚や出産を機に住居を移し、通勤時間を変化させていることも考えられます。

 

今回の分析では、一概に都道府県全人口の通勤時間を変数に用いるのではなく、出生率に関わる15~24歳、25~34歳、35~44歳の男女と、計6つの層に分け、男女年齢層別の比較を行いました。

 

図2:2010年の都道府県ごとの平均通勤時間のヒストグラム(上段男性、下段女性、左から15~24歳、25~34歳、35~44歳)

f:id:SurugaD:20160223195615p:plain

 

 

2. データ

使用データの一覧以下の通りです。2000年、2005年、2010年の都道府県別のデータを使用、これらの年に該当するデータがない場合は、得られたデータのうち最も年の近いデータを使用しています。加えて今回の分析ではダミー変数として、東京ダミーと沖縄ダミーを用いています。

 

合計特殊出生率

・普通出生率

・夫の平均初婚年齢

・妻の平均初婚年齢

・15~24歳男性平均通勤時間

・25~34歳男性平均通勤時間

・35~44歳男性平均通勤時間

・15~24歳女性平均通勤時間

・25~34歳女性平均通勤時間

・35~44歳女性平均通勤時間

・婚姻率

・人口密度

・単独世帯割合

第三次産業就業者の割合

・昼夜間人口比率

・普通離婚率

・乳児死亡率

・幼稚園数

・小学校数

保育所

・一人当たり県民所得

・産科産婦人科医数

・15歳以上正規雇用率(男女別)

・待機児童数

・刑法犯認知件数

・育児休暇取得率(男女別)

 

 

3. 分析と考察

平均通勤時間6パターンと、設定した5つの回帰式を、P値が0.8を超える説明変数を除いて再度分析、P値が0.6を超えるもの・・・と繰り返し、最終的にP値が0.2を下回ったところで分析をやめ、約80通りの分析を行いました。今回は以下の2つの回帰分析についての結果と、一番赤池情報量基準(AIC)の値の低い式の結果を紹介します。

 

3-1. 合計特殊出生率を被説明変数とした回帰分析

 

3-2. 夫・妻の平均初婚年齢を被説明変数とした回帰分析

 

 

3-1. 合計特殊出生率を被説明変数とした回帰分析

 

分析の結果、15~24歳女性、25~34歳男性、35~44歳男性の平均通勤時間は合計特殊出生率に優位に負の影響を与えるという結果が得られました。

 

最も有意な結果が得られたのは、25~34歳男性の平均通勤時間でした。この年齢層は平均初婚年齢に近い層であるため、出生率に大きく関わる層ともいえ、彼らの通勤時間の長さが、全体の出生率の低下に関与していると考えることができます。

 

その他の変数については、15歳以上正規雇用率、幼稚園数、保育所数、産科産婦人科医数は、合計特殊出生率に正の影響を与え、第三次産業就業者の割合、一人当たり県民所得は負の影響を与えるという結果となりました。

 

表1: 25~34歳男性平均通勤時間を説明変数に用いた時の分析結果

変数名

係数

t値

P値

25~34歳男性平均通勤時間

-0.231

-3.02

0.00

15歳以上男性正規雇用

0.294

3.99

0.00

第三次産業就業者の割合

-0.328

-4.83

0.00

対人口産科産婦人科医数

0.140

2.73

0.00

一人当たり県民所得

-0.372

-5.06

0.00

対人口幼稚園数

0.130

2.73

0.00

対人口保育所

0.139

2.23

0.02

沖縄ダミー

2.958

8.07

0.00

R2: 0.74, AIC: 1.64

 

3-2. 夫・妻の平均初婚年齢を被説明変数とした回帰分析

 

平均初婚年齢は出生率に影響を与えることから、設定した説明変数が平均初婚年齢を高め、その結果出生率の低下の要因になっていることも考えられます。そのため、夫・妻の平均初婚年齢を被説明変数として回帰分析を行いました。

 

分析の結果、35~44歳女性の平均通勤時間のみ、妻の平均初婚年齢に正の影響を与えるという結果となりました。しかし、妻の平均初婚年齢の都道府県平均が27.6歳(2005年)であることを考慮すると、この変数が初婚年齢の上昇に影響を与えているということは考え難いです。平均初婚年齢が低いほど、平均通勤時間も短くなるという、逆の因果も考慮できる、つまりは同年代の未婚の女性が多い地域ほど平均通勤時間も長くなる傾向にあるということも考えられます。したがって、女性の平均通勤時間長さが平均初婚年齢を高めている原因となっているとは、必ずしも言い切れないことに注意が必要です。

 

その他の変数については、一人当たり県民所得、単独世帯割合は、夫・妻の平均初婚年齢に正の影響を与え、15歳以上正規雇用率、小学校数、普通離婚率、幼稚園数は負の影響を与えるという結果となりました。

 

表2: 15~24歳男性平均通勤時間を説明変数に用いた時の分析結果(平均通勤時間のP値が0.2を超えていたため除外されてしまっています)

変数名

係数

t値

P値

15歳以上男性正規雇用

-0.271

-3.31

0.00

第三次産業就業者の割合

-0.373

-3.54

0.00

対人口小学校数

-0.177

-2.09

0.03

昼夜人口比率

-0.669

-7.80

0.00

普通離婚率

-0.327

-4.82

0.00

一人当たり県民所得

0.383

3.42

0.00

単独世帯割合

0.463

4.38

0.00

人口密度

0.365

4.57

0.00

対人口幼稚園数

-0.273

-5.50

0.00

東京ダミー

2.395

3.67

0.00

沖縄ダミー

2.145

5.29

0.00

R2: 0.78, AIC: 1.50

 

         

 

 

4. まとめ

結論として、男女ごとに対象の年齢層は異なるが、平均通勤時間は出生率に与える負の影響を与えていると考えられます。現在、少子化や晩婚化を解決させる様々な政策が、国や地域で実施されていますが、出生率を回復させるための政策の一つとして、平均通勤時間の長い地域を改善する政策を行うことで、日本の少子化の進行の流れを変化させる要因としてはたらくのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

参考文献

戸田淳仁(2007)、『出生率の実証分析-景気や家族政策との関係を中心に』

小崎敏男(2010)、『若者を取り巻く労働市場の変化と出生率の変化』

みずほ情報総研株式会社(2005)『地域経済及び社会保障における地域差についての統計的分析』 

多田智和・杉下昌弘(2010)『全国及び47都道府県毎の生活時間相互の関係の傾向分析(参考比較:少子化指標、経済指標)』

伊達雄高・清水谷諭(2004)『日本の出生率低下の要因分析:実証研究のサーベイと政策的含意の検討』

宇南山卓(2011)『結婚・出産と就業の両立可能性と保育所の整備』

 

データ出典

総務省統計局『国勢調査

総務省統計局『社会生活基本調査』

厚生労働省『人口動態調査』

文部科学省『学校基本調査』

厚生労働省社会福祉施設等調査』

内閣府『県民経済計算』

厚生労働省『医師・歯科医師・薬剤師調査』

総務省統計局『就業構造基本調査』

総務省統計局『社会生活統計指標』

警察庁『犯罪統計』

 

 

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