卒論紹介『大型商業施設が地方都市に与える影響の分析について』
4年の櫻井です。今回は、卒業論文について、簡単にではありますが、紹介していきます。
テーマ
「大型商業施設が地方都市に与える影響の分析について
――両毛地域におけるイオン店舗の経済的影響の考察」
はじめに
近年日本では豊富な土地の余剰がある地方への、大型商業施設の出店が増加している。大型商業施設の出店は、周辺地域への経済効果が非常に大きく地域の活性化につながるだろうと期待されている。一方で、大型店舗ではより少ない従業員によってそれまでよりも、大きな売り上げを上げるなどの利潤の効率化や、もともと当該地域にある商店街などの多店舗からの顧客吸収など、マイナスの経済効果を与えているという指摘もなされている。そこで、大型商業施設の出店が真にプラスの経済効果をもたらしているのかをDID分析を用いて検証していく。
大型商業施設といってもその種類は、様々である。そのため、今回は地方都市とその周辺地域の経済に、より深い関係があるであろうと考え、食料品など日用品の調達場所として、周辺地域の住民をメインのターゲットとする店舗の代表的なものとしてイオンを調査対象とした。
今回、分析対象としたイオンは次の通りである。
・イオン高崎店
・イオン大田店
・イオン今市店
・イオンモール小山店
・イオンモール佐野新都心店
・イオン栃木店
同様に、分析に使用したデータは、住宅地平均地価、商業地最高地価、法人税、新設住宅着工戸数であり、それぞれの市町村ごとに集めて使用した。
・新設住宅着工戸数・・・(住宅着工統計)
分析結果、および考察
住宅地平均地価
住宅地平均地価 |
イオン都市 |
非イオン都市 |
開業1年前 |
|
|
平均 |
-5.25% |
-7.01% |
中央値 |
-4.96% |
-6.88% |
0.009157191 |
0.019154532 |
|
開業1年目 |
|
|
平均 |
-4.69% |
-8.85% |
中央値 |
-4.18% |
-5.66% |
0.018701701 |
0.077435963 |
|
開業2年目 |
|
|
平均 |
-7.12% |
-5.39% |
中央値 |
-5.46% |
-4.84% |
0.04206436 |
0.025214079 |
|
開業3年目 |
|
|
平均 |
-4.48% |
-5.41% |
中央値 |
-5.34% |
-4.84% |
0.033924433 |
0.025214079 |
|
開業4年目 |
|
|
平均 |
-3.89% |
-5.57% |
中央値 |
-5.54% |
-5.96% |
0.037711054 |
0.045266132 |
|
開業5年目 |
|
|
平均 |
-5.35% |
-4.07% |
中央値 |
-5.53% |
-4.47% |
0.056657437 |
0.037864784 |
住宅地平均地価については、イオンの開業は、わずかであるが地価の減少を改善させるという結果がみられた。
開業1年目にはイオン都市の地価が改善し、非イオン都市の地価の増加率が大幅に下落しているのがわかる。イオン都市において、住宅地の地価が改善したということはその地域に住みたいと思う人が増加したものによると考えられる。イオン開業によって、新たに生まれた雇用にともなって、勤務地の近くに引っ越す人が増加したのではないだろうか。さらには、開業することによる生の利便性の向上などの期待感が高まり、地価の増加率を改善させたのではないかと考えられる。しかし、開業2年目ですでにイオン開業の効果は非常に弱いものとなり、開業から5年目には、非イオン都市との差はほぼなくなっていることから、その効果は非常に限定的であることもわかる。また地価が改善しているのは開業前後のみであり、開業2年目以降には大きな値の増減をみることはできない。
大型商業施設開業の効果は、住宅地においてはプラスに働くが、その効果は非常に短期的なものであるといえるだろう。
商業地最高地価
商業地最高地価 |
イオン都市 |
非イオン都市 |
開業1年前 |
|
|
平均 |
-6.04% |
-12.52% |
中央値 |
-5.13% |
-10.20% |
0.038513606 |
0.045778336 |
|
開業1年目 |
|
|
平均 |
-9.04% |
-10.91% |
中央値 |
-6.66% |
-11.63% |
0.044964098 |
0.054681513 |
|
開業2年目 |
|
|
平均 |
-9.10% |
-9.89% |
中央値 |
-7.61% |
-12.96% |
0.056882559 |
0.069033869 |
|
開業3年目 |
|
|
平均 |
-9.07% |
-10.10% |
中央値 |
-10.69% |
-12.96% |
0.075205943 |
0.069033869 |
|
開業4年目 |
|
|
平均 |
-7.63% |
-7.17% |
中央値 |
-7.94% |
-10.20% |
0.077922408 |
0.098672142 |
|
開業5年目 |
|
|
平均 |
-6.51% |
-3.04% |
中央値 |
-6.54% |
-4.72% |
0.070532036 |
0.06176422 |
商業地最高地価については、イオンの開業は商業用地の地価を大幅に下げるという結果となった。同時期の非イオン都市においては、緩やかな改善が続いていることからも、イオンの開業は、商業地においてマイナスの影響を与えていることがわかる。つまり、その土地にできたイオンが新たに生み出した消費と収益率が、既存店からイオンが吸収した収益率よりも低いといえるだろう。
また、大型商施設であるイオンには、様々な専門店が複合的にあることからも、イオン周辺への他事業者の出店は難しいと考えられる。その点も、商業用地としての価値を下げた要因として挙げられるのではないだろうか。
このことからも、本稿のはじめで先行研究の中で紹介したように、大型商業の開業は、経済的にプラスの影響を与えるのではなく、単に経済発展ではなく、経済活動の配置転換であるといえるかもしれない。
イオン都市 |
非イオン都市 |
|
開業1年前 |
|
|
平均 |
2.31% |
7.64% |
中央値 |
8.49% |
10.84% |
0.157346946 |
0.234734674 |
|
開業1年目 |
||
平均 |
25.37% |
26.43% |
中央値 |
21.72% |
8.23% |
0.162302601 |
0.415385859 |
|
開業2年目 |
||
平均 |
-1.21% |
7.41% |
中央値 |
-0.72% |
2.67% |
0.098294387 |
0.199326763 |
|
開業3年目 |
||
平均 |
18.91% |
6.04% |
中央値 |
6.78% |
2.67% |
0.345776023 |
0.199326763 |
|
開業4年目 |
||
平均 |
71.45% |
6.79% |
中央値 |
3.62% |
1.94% |
1.708449568 |
0.20578225 |
|
開業5年目 |
||
平均 |
11.45% |
-2.12% |
中央値 |
3.01% |
0.28% |
0.270121052 |
0.102163617 |
法人税については、開業前後で法人税の増加率は非常に大きく増加していることから、イオンの開業は当該地区での売り上げの増加に寄与していることがわかった。これは、イオン開業により当該地区での消費が増加したことが示唆される。しかし、非イオン都市と比較すると2年目までの増加率の推移がほぼ同じである点から考えると、増加の原因がイオンの開業にあるかは、注意して考慮する必要もあるだろう。だが、この増加は長く続かず、開業2年目には大きく減少している。これは、単にイオンの売り上げが落ちたこともあるであろうが、一方でイオン出店によって、閉店または売り上げが落ちてしまった事業所の影響も考えられる。
また、住宅地平均地価同様にイオン開業による大きなプラスの効果は長期的には続かず、都市を経るごとに、減少していくこともわかる。
新設住宅着工戸数
新設住宅着工戸数 |
イオン都市 |
非イオン都市 |
開業1年前 |
|
|
平均 |
0.94% |
-6.09% |
中央値 |
6.93% |
-4.63% |
0.116446159 |
0.147937677 |
|
開業1年目 |
||
平均 |
18.25% |
-0.71% |
中央値 |
18.46% |
2.62% |
0.096999023 |
0.146019129 |
|
開業2年目 |
||
平均 |
16.61% |
8.54% |
中央値 |
21.14% |
10.00% |
0.196255644 |
0.115810271 |
|
開業3年目 |
||
平均 |
-2.52% |
8.73% |
中央値 |
2.88% |
11.11% |
0.153340064 |
0.104664703 |
|
開業4年目 |
||
平均 |
-0.88% |
9.51% |
中央値 |
-1.95% |
16.92% |
0.170594613 |
0.158893657 |
|
開業5年目 |
||
平均 |
-5.60% |
0.01% |
中央値 |
-0.93% |
-1.48% |
0.200728943 |
0.128633273 |
新設住宅着工戸数については、イオンの開業は短期的にはプラスの影響を与え、長期的にはほぼその効果はなくなるという結果となった。これは、イオン開業にともなる、周辺地域の人口増加、あるいは増加した雇用により、他地域から当該地域への転入者が増えたのではないかと考えられる。しかし、その影響はほかの変数同様開業1、2年の短期的なものである。ここで、他の変数と異なる点は開業後年数を経るごとに減少率が大きくなり長期的には、マイナスの影響となっている点である。
参考文献・データ出典
・原田英生(2008),『アメリカの大型店問題 小売業をめぐる公的制度と市場主義幻想』、有斐閣。
・松浦寿幸・元橋一之(2006),「大規模小売店の参入・退出と中心市街地の再生」,独立行政法人経済産業研究所,2006,Vol.35,No.3。
・慶應義塾大学 直井道生研究会 地方政策分科会(2014),「アウトレットモール開業が地域に与える影響 ――成功するアウトレット開業とは」,ISFJ 政策フォーラム2014 発表論文
http://www.land.mlit.go.jp/landPrice/AriaServlet?MOD=2&TYP=0 (2015.11.23アクセス)
・国土交通省『住宅着工統計』
・一般社団法人 日本ショッピングセンター協会ホームページ
http://www.jcsc.or.jp/ (2015.10.26アクセス)
・イオンリテール株式会社ホームページ
http://www.aeonretail.jp/shop/aeonlist.html (2015.10.26アクセス)
・イオン各店舗ホームページ(イオン高崎店、イオン太田店、イオン今市店、イオンモール小山店、イオンモール佐野新都心店、イオン栃木店)
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